• note1
  • note2
  • note3
  • note4
  • note5
  • スコットランドの名曲から生まれた大ヒットミュージカルが映画に

    写真 ジーン  2005年、脚本家のスティーブン・グリーンホーンは、スコットランドを舞台にしたミュージカルを作ろうとしていた。ある夜、プロクレイマーズの最初のアルバム「This Is the Story」を聞いていたグリーンホーンは、歌詞で物語を語る彼らの曲は、ミュージカルにピッタリだと気付く。
     すぐにプロクレイマーズのクレイグとチャーリーのリード兄弟に曲の使用許可を得たグリーンホーンは、それからの2年間をミュージカル制作に費やした。
     2007年、ついに舞台は完成、スコットランドでの最初の公演は完売、観客からも批評家からも熱狂的な支持を集め、2回の追加公演が行われた。ガーディアン紙は「『ブラッド・ブラザーズ』以来の最高の英国ミュージカル」と称し、プロクレイマーズの代表曲の歌詞にちなんで、「500マイル、そしてさらに500マイル歩いて行ってでも見る価値のある舞台だ」と絶賛した。
     リード兄弟は制作には関わらなかったが、ツアーの合間に舞台を見に行き、「素晴らしかった。役者たちが自分の曲を歌っているのを聞くのは夢のようだった。感動して、何度も涙が出たよ」と語っている。
     あまりの大ヒットに、映画化権を巡る激しい競争が起こり、最終的にブラック・キャメル・ピクチャーズのアラベラ・ペイジ・クロフトがこれを獲得した。「この作品はスコットランドで本当に愛されていたからね」とクロフトは当時を振り返る。
  • 魅力的な人となりで素晴らしい演技を引き出す、ベテラン俳優にして新人監督

    写真 リジー  監督には、俳優としても活躍するデクスター・フレッチャーが抜擢された。最初に見た映画は『雨に唄えば』で、1976年の俳優デビュー作が、アラン・パーカー監督、ジョディ・フォスター主演の大ヒットミュージカル映画『ダウンタウン物語』だったフレッチャーは、子どもの頃からずっとミュージカルに対する深い愛情と知識を持ち続けていると胸を張る。
     フレッチャーにとって何よりも大切なのは、説得力があり、人の心を掴むドラマを作り上げることだった。フレッチャーはプロクレイマーズの曲の歌詞を手元に置きながら、グリーンホーンが3回書き直した脚本を研究し、プロクレイマーズの音楽に脈打つ感情が、物語とどのように融合しているかを理解した。
     フレッチャーにとって本作は、家族の物語であると同時に、自分がいない間に変わってしまった世界に適応しようとする、若きイギリス兵たちの物語でもあった。そして、物語と登場人物をしっかりと現実に根付かせながらも、ミュージカルの放つエネルギーをスクリーンで再現することも大切だった。
     製作に加わったDNA社のアンドリュー・マクドナルドとアロン・ライヒは、フレッチャーの才能をこう讃える。「彼は優れたコミュニケーターであり、大きな存在感をもっている。誰もが彼に好意を持ち、一緒に仕事をしたいと思い、彼を助けたいと思う。そんなフレッチャーの人となりが現場を活き活きとさせ、確実に人々の心を惹きつける演技が生まれていった。」
  • 俳優としての力量と歌唱力の絶妙なバランスを目指したキャスティング

    写真 デイヴィー  物語の中心人物であるロブには、ピーター・ミュランが起用された。フレッチャーは、誠実さと深みを備えたミュランがロブを演じれば、まるで実在の人物のように、観客が感情移入できると考えた。スコットランドが誇る最高の名優であるミュランだが、最初は自分の歌でいいのかと心配したと語る。「プロデューサーが、“肝心なのは『Oh Jean』1曲だけだから”と言うので、だったら何とかできるなと思った。本番では、とても楽しんで歌ったよ。」
     プロデューサーたちは、主題歌を歌うジーンには、絶対に歌唱力と実績のある女優が必要だと考え、『キャバレー』、『アニーよ銃を取れ』、『リトル・ヴォイス』などのミュージカルで高い評価を得たジェーン・ホロックスに声をかけた。プロクレイマーズも、ジーン役には彼女が理想的だと喜んだ。
     ロブの息子のデイヴィー役に選ばれたジョージ・マッケイはスコットランドの家系だが、父はオーストラリア人で生まれはロンドンなので、訛りを学んだ。デイヴィーと恋に落ちるイヴォンヌを演じたアントニア・トーマスは、美しいソプラノを国立青少年音楽劇場やブリストル・オールド・ヴィック演劇学校で鍛えている。
     デイヴィーの妹のリズを演じる新人のフレイア・メーバーは、オーディションでケルトの民族音楽を歌い、プロデューサーたちを魅了した。「思わず涙が溢れてきた」とフレッチャーはその時のことを語る。また、フレッチャーはリズの恋人のアリーを演じるケヴィン・ガスリーを「素晴らしいエネルギーと目の輝きを持ち、すぐに適役だと感じた」と賞賛する。
  • 名作『トレインスポッティング』が生まれた街を舞台に同製作スタッフが結集

    写真 街並み  撮影は、エディンバラ、リース、隣街のグラスゴーで行われた。ホロックスは、街の様子をこう語る。「地元の人たちは気さくで親しみがあって、素晴らしかったわ。ロンドンに住んでいる私は、いかに素っ気ないかと恥ずかしくなったくらいよ。人はみな親切で、建築物も最高よ。」
     プロデューサーのマクドナルドにとって、スコットランドでの撮影は、懐かしい故郷に帰るようなものだった。最初に手掛けた2作『シャロウ・グレイブ』と『トレインスポッティング』も、スコットランドのリースが舞台だったのだ。マクドナルドは、スコットランドを絶対に魅力的に撮ろうと決意していた。
     スコットランド出身のグリーンホーンは、完成した作品を見て、とても感動したと語る。「映画を見ていて、故郷のスコットランドが恋しくなった。私は、この脚本をリースへのラブレターのつもりで書いた。撮影監督のジョージ・リッチモンドの映像によって、その想いが全編に溢れている。スコットランドを暗く描いている映画に慣れている人たちにとっては、嬉しい驚きになると思うね。」
  • プロクレイマーズの曲にパワーと命が宿り、壮大なミュージカルになるまで

    写真 街並み  音楽監督のポール・イングリッシュビーは、プロクレイマーズの曲をアレンジし、まずはスタジオでインストルメンタルを録音した。その後、出演者たちの歌を指導し、録音作業を監修した。そして最後にポスプロで管弦楽のキューを加えた。
    撮影期間は6週間だったが、リハーサルに4週間が費やされた。マクドナルドはリハーサルについてこう語る。「まるでショーの公演のようだった。俳優たちが成長していく姿を確認することができた。充実したプロセスだったよ。」
     プロクレイマーズの歌のテンポが変更されたシーンもある。例えば、「Hate My Love」は本来迫力ある激しい曲調の歌だが、曲のペースを落としたことで、悲しみに打ちひしがれたジーンが歌う優しいバラードへと変わった。イングリッシュビーはこの歌を、ギター2本とホロックスの歌声だけで作った。また、ミュランが銀婚式のパーティで「Oh Jean」を歌う重要なシーンの撮影は、グラスゴーの労働者向けの酒場で行われ、数千もの豆電球で飾り付けられ、120人のエキストラが集まった。
     物語はプロクレイマーズの歌の物語とは、必ずしも一致していないとフレッチャーは語る。「例えば、「Misty Blue」はスコットランド人でいることの意義について歌っているけれど、映画ではラブソングとして使っている。メッセージ性の強い歌をとても個人的で繊細なことに使うのは面白いよ。ストーリーテリングにたくさんの意味合いと重々しさを加えてくれるんだ。」
     プロクレイマーズの代表曲で、世界的にも知られている曲「I’m Gonna Be(500Miles)」が、壮大でアップビートなフィナーレを飾る。観客の感情に強く働きかけるクライマックスにしようと、フレッチャーはこの曲にエディンバラの街頭で撮影した大規模なミュージカル・ナンバーを加えた。このフィナーレでは、マッケイとトーマス、さらにエキストラ500人が情熱を込めて歌い上げた。プロクレイマーズのクレイグは、「僕らの手を離れて、この曲にパワーと命が宿った」と讃えている。
サンシャイン/歌声が響く街